Jリーグでの挫折、そしてタイで見つけた新しい自分のサッカーへの思い。大学卒業後にJリーグで5シーズン、タイリーグでも来季5シーズン目を迎える32歳のストライカーは、今が一番サッカーを楽しめていると話す。タイで彼が見て来たものとは、そしてこれからのキャリアについても語ってもらった。
杉本裕之
3シーズンに渡り所属したクラブ
チャムチュリでの3シーズンは本当に楽しいと思える3年間でした。プレースタイルも自分に合っていたと思いますし、能力の高い若い選手たちとプレーするのは本当に楽しかった。
チャムチュリは大学を母体とするクラブで、選手たちも大学生くらいの年齢の選手が多いんです。彼らは本当に才能がある選手ばかりで、自分にとっても色々なことを彼らから吸収することができたと思っています。
環境は若い選手にとってとても大事
自分は大学時代には指導者の方や周りの環境にはすごく恵まれました。だからチャムチュリで若い選手たちとプレーするようになって、彼らがもっと伸びるためにはどうしたら良いんだろうと普段から考えるようになりましたね。
僕がいた明治大学サッカー部は当時東京ヴェルディと提携していて、ヴェルディからコーチが派遣されて来ていました。現在はJ3のSC相模原で監督をされている西ケ谷さんという方が指導に来てくれていたのですが、西ケ谷さんの練習が今でも印象に強く残っているんです。
西ケ谷さんの練習は本当に頭を使うものばかりで、練習が終わると体だけではなくいつも頭がヘトヘトになりました。その中で精確なプレーが要求されます。あの時の練習がなければ今の自分はなかったでしょうね。
それに当時一緒に切磋琢磨していた仲間には橋本晃司(オレンジカウンティSC/アメリカ)、藤田優人(サガン鳥栖)、林陵平(東京ヴェルディ)、長友佑都(ガラタサライ/トルコ)、山田大記(ジュビロ磐田)、小林裕紀(名古屋グランパス)など現在もJリーグなどで活躍するレベルの高いメンバーも多くいました。そういう環境を大学生の年代で過ごせたことは自分にとって大きかったと思っています。
タイの若い選手は能力が高い
自分が若い頃に比べてもタイの若い選手たちのポテンシャルは本当に高いと思いますよ。チャムチュリユナイテッドからタイのトップクラブに移籍していく若い選手たちもいます。そういう若い才能ある選手たちの力に少しでもなればいいなと思いながら彼らと毎日トレーニングしています。
これまでのタイでの選手生活を振り返って
チャムチュリでの3シーズンで71試合、26得点、14アシストでした。今シーズンは6得点しか取れずに悔しかったですが、さっき言ったように本当に楽しいと思える3シーズンでした。
海外で生き残って行くためにはメンタルの強さというのが本当に大事だと感じます。こういう場所で結果を出している選手を見ていると本当にそれを強く感じます。
周りを生かすのではなく、何がなんでも自分でやってやる!というような姿勢が特にストライカーには必要です。
だから自分はトップ下や中盤の方が楽しくプレーできるのかもしれません。
これは今シーズン終盤の試合の映像です。退場者を出し1人少ない状況で時間もなかったので、思い切って打ったら良いところに飛んでくれました。劇的な展開の中での素晴らしいゴールでしたね。
来シーズン契約延長はなし
今シーズンが終了してチームからは『来シーズンは学生だけで行く』ということで外国人選手との契約延長はないという話を聞かされました。金銭的な問題もあったんだと思います。実際、現時点で給料は3ヶ月の未払いが続いているので。
一時期は4ヶ月ぶんの給料が支払われていなくて、直接オーナーに『さすがにどうにかしてくれ!』と掛け合ったこともありました。そしたら1ヶ月ぶんだけ支払ってくれて。どうにか残りも支払ってくれたら良いんですけどね。
今後について
日本でもう一度やってみたいという気持ちはあります。実際、知り合いのFC西武台というチームには『引退するならうちこいよ』と誘ってもらっています。
でも、どうですかね。日本に帰って楽しんでプレーできるのか分からないというのが本音です。
Jリーグでプレーしていた頃は色々考えすぎていて、純粋にサッカーを楽しむことができなくなっていました。プレッシャーに負けていたんです。『結果出さないといけない、ミスしちゃいけない、絶対に決めないといけない。』そういう気持ちでプレーしていて、緊張で満足できるパフォーマンスも出すことができなかった。
でも今は違う。今はとにかくサッカーを楽しむこと、楽しんだぶんだけそれが結果にも繋がるって思えるんですよね。
今みたいな気持ちで当時もプレーができていればもっとJリーグでもできたかなって思うんです。そこが自分の弱さだったわけですけど。だからメンタルは本当に大事だなと思います。
今は『もっとサッカーを楽しみたい!』それが一番大きなモチベーションで、それが海外でサッカーを続けたい理由なんだと思います。
引退後のキャリアについて
なんども言っていますが、タイには本当に若くてポテンシャルの高い選手がたくさんいます。そういう選手に自分の経験を伝えてあげたと思うようになったんです。だからコーチになるのも面白そうだなと今は思っています。
伝えるのって難しいんですよね。でも良いコーチというのは抽象的な表現ではなくて、選手が理解しやすいようにしっかりとサッカーを言語化できる人なんだと思うんです。自分もそういうコーチになりたい、そういうサッカーを学びたいなと思っています。本当は教えるのって苦手なんですけどね。
でもタイに来て、サッカーを楽しむこと、そしてサッカーの素晴らしさをより知ることができたように思うんです。そういうことを伝えられるような人になれればいいなと思っています。